PGC.journal

第4回講演

人生100年時代の歯科医院のこれから

●日時:2023年12月3日(日)9:30~12:30
●講師:押村 憲昭

講師からのメッセージ

人生100年時代と言われる今、歯科医院の真にあるべき姿とはなんだろうか。
これからの医療に求められることは、口腔内の疾患を治すことだけでなく妊産婦から乳幼児、そしてそこから患者の人生に寄り添いながら、高齢者にいたるまでを見守り続けることにあるのではないでしょうか。
分科が基本となる医科とは異なり、予防の概念も普及してきており、定期通院が当たり前になりつつある歯科医院には生涯一人の患者様に携わることのできる連続性が存在する。また、20代、30代といった全身の疾患が未病の段階でも歯科医院に定期通院されている患者様は増えてきている。このように医療においては稀な条件を持つ歯科において、かかりつけ歯科医やかかりつけ歯科衛生士による未病への挑戦こそがこれから必要なのではないか。
定期的な通院が可能な歯科医院だからこそ様々なアンテナを張れば患者様の健康にもっともっと寄り添えるのでないだろうか。そして、地域の医療機関と連携し患者様の全身の健康を地域で守る取り組みができるのではないだろうか。
超高齢社会を迎えた日本における全身疾患やフレイルの問題は、これからの医療においてますます大きな課題となってくる。真に社会に求められ、真に社会に認められ、そして歯科の価値を上げるために必要な取り組みとはどのようなものだろうか。
今回は以上のような今後歯科に求められる方向性や可能性について、当院の取り組みを紹介しながらお話しさせていただきます。また、この取り組みに必ず必要になってくる明日からできる地域の医科と仲良くする方法もお伝え致します。

講演内容

略歴

2010年
愛知学院大学歯学部 卒業
2011年
敬天堂歯科 勤務
2015年
医療法人大里会 勤務
2017年
おしむら歯科 勤務
2020年6月
かすもり・おしむら歯科 開院
大阪大学大学院歯学研究科社会人大学院 在学中
 

所属学会

日本歯内療法学会、日本歯周病学会、日本臨床歯周病学会、
日本顎咬合学会、日本皮膚免疫アレルギー学会、日本糖尿病学会

資格

 

最近の文献

  1. 歯科と連携して治す皮膚疾患3 Part3 歯科と皮膚科の連携 総説 8 歯科の対応 実際の治療の流れ 皮膚科への紹介.Visual Dermatology 16(12), 2017.
  2. その皮膚疾患 歯科治療で治るかも.クインテッセンス出版, 2020  chaptar3  金属除去治療(抗原除去療法)の実際と留意点
  3. ご近所医科歯科連携導入マニュアル.インターアクション, 2020. 単著
  4. 病巣疾患 診断と治療における最新知見.日本臨牀,79(7), 2021.  病巣疾患と歯科歯科治療 分筆

講演後記

令和5年12月3日、愛知学院大学楠元キャンパスにて第4回愛知学院大学歯学部同窓会ポストグラデュエートコースが、講師にかすもり・おしむら歯科院長の押村憲昭先生をお招きし、『人生100年時代の歯科医院のこれから』という演題でハイブリッド形式により開催されました。
近年、地域包括ケアシステムの根本原理は周知されているものの、実際は散発的な活動や学会レベルの啓蒙に留まっており、未だ軌道に乗っているとは言えません。それは、医療者のみならず地域住民一人ひとりの意識改革が根付かないことが懸案事項の一つでしょう。
押村先生は、ご自身の歯科医院を中心に、地域の医療者と地域住民の双方の意識の点と点を結ぶ活動を通して地域包括ケアシステムの実現に向け、精力的に取り組まれています。今回のご講演では、その活動の詳細をお聴きすることができました。
歯科はメタボリックドミノの最上流にある「齲蝕」や「歯周病」と日々向き合っていることに加え、歯科の特性上、未病の健常者が定期健診で来院するため、生活習慣病の早期発見や予防に寄与できる立場にあります。
かすもり・おしむら歯科では、定期健診ごとに、血圧・体組成・血糖値測定を実施して日々の気づきに繋げるだけでなく、管理栄養士による食事管理・指導などで歯科治療後の栄養状態も時系列で分析されるなど、結果を見届けるシステムを構築されています。
さらに院外では、自治体、地域の総合病院、一般開業医、看護師などの医療スタッフや、地域住民に向けての地道な広報や講演会など、様々なアプローチで医科歯科連携の重要性を伝える草の根活動を展開され、人も地域も診る能動的な地域包括ケアシステムに関わっていく基盤作りをされています。
例えば診療情報提供書ひとつを取っても、文字だけでなく口腔内写真や患者の詳しい状態、全身疾患との関係性を伝え、更には連携の結果、患者がどう改善したかについても詳細にやりとりされているため、連携の効果を医師にも実感させることができ、連携の重要性を地域に浸透させようと試みられています。これは、今の私たちもすぐに変えていくべきであると痛感しました。
人生100年のうち、健康寿命を延ばすためには予防や早期発見、早期治療が重要と叫ばれる中、私たちはどこか他人事で、予防と言ってもメインテナンスやTBI、定期健診を促す程度で、結局のところ、病の発症から治癒までにしか関われておらず、日々の業務をこなす中、それを行った気になっていたように感じました。
今回の受講を通して、変わらなければならないのは、他ならぬ医療者、地域の一住民としての自分自身であることに気づかせていただいた、大変有意義な講演会でした。