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第2回講演

舌と舌骨の理解が口腔機能不全症を解決する

●日時:2023年10月29日(日)9:30~16:00
●講師:丸茂 義二

講師からのメッセージ

口腔機能とは、咀嚼発音嚥下呼吸開閉口等の口腔を経由した機能の事を示す。筆者は顎関節症を専門として40年以上の臨床歴があるが、この口腔機能障害の治療で咬合治療やスプリントでの治療成績で満足すべきものが得られなかった。それは、この口腔内に基準を置いた診断も治療も、いずれも下顎の位置や舌の機能と言われるような口腔内だけに視点を置いているから限界があるのは当然であった。
咬合関係を考えるにしても、顎位の変動が大きい顎機能障害や、顎の発育が著しく正常値の異なる児らを見ると発育や顎機能の正常さはどのような環境が必要なのか歯科という視点を外れて考えなくてはならないことに気がつく。子どもでは発育期においては、正常な身体骨格を作り上げることが重要な視点であったが、この正常な発育を得るためには何が重要であるかは検証されない俗説によって逆に発育が阻害されている症例を多く診るようになった。全身が朽ちて口腔だけが満たされることはあり得なく、身体全部が健康になる広範な視野が口腔機能を満たす、口腔を正しく育てるために重要な視点であると考えている。舌骨を含めいかなる視点が正しい発育や口腔機能には必要なのか、改めて考えてみたい。

講演内容

  1. 口腔に求められる機能とは
  2. 正常機能が作り出すもの
  3. 発育期の機能に求められるもの
  4. 高齢者の機能に求められるもの
  5. 視点をどこに置いて診断するか
  6. 具体的な機能改善の方法とは

略歴

1980年
日本歯科大学卒業,日本歯科大学大学院歯学研究科補綴学専攻
1984年
歯学博士取得,日本歯科大学補綴学第二講座助手
1988年
日本歯科大学補綴学教室講師
2001年
日本歯科大学付属病院顎関節症診療センター初代センター長
2004年
日本歯科大学付属病院助教授
2005年
日本歯科大学東京短期大学教授
2010年
日本歯科大学名誉教授

最近の文献

  1. デンタルダイヤモンド社刊 『舌骨から紐解く顎機能の謎』
  2. 2020年4月号 月刊小児歯科臨床 『歯突起をめぐる諸問題』65-71

講演後記

令和5年10月29日(日)第2回愛知学院大学ポストグラデュコースが開催されました。講師に日本歯科大学名誉教授 丸茂義二先生をお招きして「舌と舌骨の理解が口腔機能不全症を解決する」という演題で講演頂きました。丸茂先生には2年ぶりの公演となりましたが日本全国各地より約220名の歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士の多数の参加者で盛り上がりました。
舌骨と口腔機能との関係が重要であり、吸啜期から離乳食期、小児期、成人期へと成長発育をするに従って解剖学的機能変化を理解することが非常に大切です。吸啜時は口腔内そのものが消化管となり、この時期の舌骨は高位にあり平舌を口蓋に固定して蠕動運動にて乳汁を食道に送り込みます。舌骨がほぼ固定されているため嚥下を行うことができません。
次に頚椎の回旋運動から首が伸びてくると舌骨は下がり、下顎が少し動くようになり上顎と下顎で開口します。離乳食初期では舌レロレロ運動が頚椎を育てます。首が伸びることにより更に舌骨が低位になることで三叉神経が働き出し下顎の可動性も増加してきます。この時期に平舌から舌の厚みを増し離乳食開始となります。
離乳食期はまだ骨格系が未熟な為、軟食を徹底させることで体幹の深層筋から表層筋へと順番に筋肉を活動させて、頚椎の正常機能ができる環境を作ることが大切です。
次に呼吸の発達について、吸啜初期は腹式呼吸ですが首が伸びてくると胸腹式呼吸となり、更に舌骨が下がることで胸式呼吸へと移行していきます。正常呼吸を行うための環境は、頚椎発育に伴って舌骨が低下し、舌骨を動かす顔面神経の活動の増加が重要となります。
また、脊髄機能に求められるものは無意識に行われている身体の平衡機能であり、咀嚼や嚥下、歩行、姿勢制御などの定型的自動運動パターンです。脊髄からくる自動運動の時に脳は盛んに知能活動を別個に行うことができます。小児では如何に正しく脊髄機能を使えるかで脳の発達量が決まります。脊髄ネットワークを正しく機能させる為にはお行儀良く、頭位に気をつける事、洋食ではなく和食にしてお茶碗を手に持ち食事をすることが大切です。
このように口腔機能不全を口腔内の観察からだけで捉える事は難しく、舌や舌骨の機能を理解すること、呼吸機能は直筋系の動きで決まることや脊髄機能に求められることも考慮する必要があると教えて頂きました。

患者を診断治療する上で診断に至るまでの考え方、診断の幅を増やす知識と観察力が重要です。着眼大局を心掛けながら、着手小局で臨床に挑むことの大切さを学びました。
飽くなき探究心を持ちながら日々の診療に研鑽を積みたいと思います。