PGC.journal

第1回講演

CAD/CAM冠がはずれないための形成と接着
-CAD/CAM冠、すべきこと・してはいけないこと-

●日時:2023年9月3日(日)9:30~12:30
●講師:峯 篤史

講師からのメッセージ

歯科用金属の高騰が想像を絶するものとなり,金属代用材料による保険治療が待望されていた.そのような中,小臼歯に対するメタルフリー治療としてレジンブロックを用いてComputer-aided design/Computer-aided manufacturingで製作するクラウン(以下CAD/CAM 冠)が2014年に保険導入された.しかしながら臨床では,CAD/CAM冠の早期脱落トラブルが散見され大きな問題となった.
この原因究明のために我々は,「接着阻害因子に注目した基礎研究」と「デジタルデータを抽出した臨床研究」を行ってきた.これらの研究成果によって,何が明らかとなり,治療法はどのように進化したのであろうか? 現在,歯科治療にデジタル技術が普及してきているが「支台歯形成」と「装着」はアナログ的なステップとして残されている.このようなデジタルとアナログの接点において,歯科医師は適切な処置を行うことができているだろうか? 
2014年から9年たった今,上記の疑問をテーマにCAD/CAM冠に関する「最新の情報」と「最良の治療法」を解説したい.その上で,現状における補綴治療の在り方について理解を深めたい.本講演が愛知学院大学の皆様のお役に立ち,皆様にとってベストの「接着治療」および「アナログ技術」が実現できるように全力を尽くしたい.

講演内容

  1. CAD/CAM冠の基礎研究
    2014年当初は何もわかっていなかった
    令和5年における接着技法:2014年からの大きな変貌
  2. CAD/CAM冠の臨床研究:
    どれくらい脱離しているのか,他にどのようなトラブルが起こっているのか
    デジタルデータが示すCAD/CAM冠脱離の要因
    令和5年における形成のポイント:研究からの知見と臨床における実際
  3. デジタル,メタルフリー,接着の色々なお話
    デジタル時代のアナログを再考する
    日本独自のメタルフリー治療の確立
    接着歯学におけるジャパンパワー

略歴

平成11年
岡山大学歯学部歯学科 卒業
平成15年
岡山大学大学院歯学研究科 修了
平成15年
岡山大学歯学部附属病院 第一補綴科 医員
平成16年
岡山大学医学部・歯学部附属病院 補綴科(クラウン・ブリッジ) 助手
平成18年
ベルギー王国・フランダース政府 奨学生(ルーベン・カトリック大学)
平成19年
ルーベン・カトリック大学 ポストドクトラル・リサーチャー
平成22年
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 インプラント再生補綴学 助教
平成24年
大阪大学大学院歯学研究科 クラウンブリッジ補綴学分野 助教
令和 元年
大阪大学歯学部附属病院 口腔補綴科 講師
(平成28年~  岡山大学大学院 インプラント再生補綴学分野 非常勤講師 併任)
(令和 4年~  九州歯科大学 口腔再建リハビリテーション学分野 非常勤講師 併任)年

所属学会

日本接着歯学会:専門医,学術委員会委員,研修検討委員会委員,専門医認定委員会委員,特別事業対策委員会委員,評議員,役員(理事長)幹事
日本補綴歯科学会:専門医・指導医,JPR英文誌編集委員,代議員
日本歯科理工学会:デンタルマテリアルシニアアドバイザー・英文誌(DMJ)編集委員会委員・調査研究委員会委員
日本口腔顔面痛学会:専門医,ガイドライン作成委員,優秀論文賞委員会委員
日本口腔リハビリテーション学会:認定医
日本歯科審美学会:編集委員
日本保存歯科学会,日本歯科審美学会,日本レーザー歯学会,日本顎関節学会,日本歯科教育学会,日本口腔インプラント学会,老年歯科学会,日本歯科東洋医学会,International Association for Dental Research,岡山歯学会,大阪大学歯学会,病院歯科介護研究会,ベルギー研究会

委員等

日本歯科医学会連合:国際活動委員会委員
ISO/TC 106:日本委員会委員
Journal of Prosthodontics Research:Sub Editor-in-Chief, Associate Editor
Dental Materials Journal:Associate Editor
Journal of Adhesive Dentistry:Editorial Board
Journal of Oral Science:Editorial Board

受賞歴

平成  2年・・・第32回 大阪府学生科学賞最優秀賞「シャボン玉の研究‐その膜の厚さと色‐」 
平成  3年・・・第32回 日本学生科学賞 入選二等 「シャボン玉の研究」
平成11年・・・Merit Award(Student award for Prosthetic Dentistry)
平成15年・・・Student Award(The Academy of Dental Materials)
平成16年・・・第110回 日本補綴歯科学会 課題口演コンペティション優秀賞、第44回 日本理工学会 研究奨励賞
平成17年・・・第17回 日本レーザー歯学会 優秀発表賞
平成18年・・・2007年度 ベルギー王国・フランダース政府 奨学金留学生
平成22年・・・平成21年度 岡山歯学会 奨励論文賞
平成23年・・・日本歯科理工学会 IADR-DMGC-J記念賞、第134回 日本歯科保存学会学術大会(春期) デンツプライ賞
平成24年・・・2012年度 日本歯科保存学会 奨励賞
平成25年・・・平成25年度 日本接着歯学会 論文賞
平成26年・・・第3回 大阪大学 総長奨励賞 第9回 大阪大学総長による表彰
平成27年・・・第4回 大阪大学 総長奨励賞 第3回 日本歯科理工学会 学術賞
平成28年・・・平成27年度 大阪大学大学院歯学研究科 研究科長賞(研究部門) 2016年度 日本歯科保存学会 学術賞
平成29年・・・平成28年度 岡山歯学会優秀論文賞
平成30年・・・平成29年度 大阪大学歯学会優秀研究奨励賞(指導教員) 平成30年度 日本接着歯学会 論文賞
令和元年・・・平成30年度 大阪大学大学院歯学研究科 研究科長賞(研究分野)
令和3年・・・令和2年度 大阪大学大学院歯学研究科 研究科長賞(教育分野)
令和4年・・・令和3年度 日本補綴歯科学会 学会論文賞

最近の文献

  1. CAD/CAMレジン冠への接着技法:2014 年からの変貌
    峯 篤史, 上村(川口)明日香, 東 真未, 山田(田尻)裕子, 萩野僚介, 松本真理子, 矢谷博文
    接着歯学 40(1) 18-23 2022
  2. CAD/CAMレジン冠:日本から発信するメタルフリー治療
    峯 篤史, 松本真理子, 伴 晋太朗, 矢谷博文
    日補綴誌 14(2) 115-123 2022
  3. CAD/CAMレジン冠の臨床と基礎研究:日本独自のメタルフリー治療の確立
    峯 篤史, 萩野僚介, 伴 晋太朗, 松本真理子, 壁谷知茂, 矢谷博文
    日本歯科理工学会誌 41(2) 135-141 2022
  4. Four-year clinical evaluation of CAD/CAM indirect resin composite premolar crowns using 3D digital data: Discovering the causes of debonding
    Kabetani T, Ban S, Mine A, Ishihara T, Nakatani H, Yumitate M, Yamanaka A, Ishida M, Matsumoto M, Van Meerbeek B, Shintani A, Yatani H
    J Prosthodont Res 66(3) 402-408 2022
  5. Adhesive Dentistry in Prosthodontics: The key to open minimal intervention and full-digital treatment
    Atsushi Mine
    Journal of Prosthodontic Research 66(2) vi-vii 2022

講演後記

令和5年9月3日(日)第1回愛知学院大学歯学部同窓会ポストグラデュエートコースが愛知学院大学楠元学舎において対面とZoomでのWeb受講により開催されました。
講師には大阪大学大学院歯学研究科クラウンブリッジ補綴学分野講師 峯 篤史先生をお招きし、「CAD/CAM冠がはずれないための形成と接着」―CAD/CAM冠、すべきこと・してはいけないことー という演題でご講演していただきました。
レジンブロックを用いてComputer-aided design/ Computer-aided manufacturingで製作するクラウン(以下CAD/CAM冠)が2014年に保険導入されて、9年が経過しました。補綴装着後のトラブルとしては、以前からあったレジンジャケット冠と同様「破折」が多くなると想像されていましたが、実際は「脱離」が最も多く、また注目すべきこととして脱離の発生時期は多くが装着後早期(6ヶ月以内)であり、その後は発生頻度が低くなり、さらに 脱離した冠の再装着後の予後は良好であることも明らかになりました。この原因究明のため先生の教室で行った「接着阻害因子に注目した基礎研究」と「デジタルデータを抽出した臨床研究」からCAD/CAM冠に関する「最新の情報」と「最良の治療」について解説していただきました。この研究結果に基づき、2014年に日本補綴学会から推奨されたCAD/CAM冠の接着技法は、現在推奨される接着技法に変更されたそうです。
CAD/CAM冠脱離の理由としては「接着方法の不備」が注目されているが、「支台歯形成」、「咬合調整」、「冠適合性」も重要な要因であると述べられ、それぞれについて詳しく説明していただきました。
金属価格の高騰、メタルフリー治療、デジタル化の波などから、CAD/CAM冠の需要はますます増えていくことと思われます。CAD/CAM冠脱離の要因を知り、それを回避するためにすべきこと、してはいけないことを明確に知ることができました。CAD/CAM冠の臨床成績を向上させるために、明日から取り入れることのできる内容で大変有意義な講演会でした。