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第4回講演

歯科臨床45年の軌跡その2 歯を守る歯科医療
-抜かず・削らず・歯の神経を守る歯科医療-

●日時:2022年2月6日(日)9:30~17:00
●講師:斉藤 佳雄

講師からのメッセージ

ここ数年来、「歯の破折」を主訴として来院される患者さんが増加している。その多くは、既に他院を受診され、『ヒビが入っているから抜くしかない』、『抜歯して、インプラントかBridgeになる』との診断を受けた後、
「抜かずに何とか治療する方法はありませんか?」との主訴で来院される方々である。
演者は1998年より破折歯根の接着・再植保存法に取り組み、破折した歯根を接着した後、再び口腔内に再植することで、充分に咀嚼に寄与している多くの臨床例を経験して来た。
今回は、それらの経験を基に、現在 主として取り組んでいる 非抜歯による破折歯 歯冠内接着保存法による様々な臨床例について、実際の症例を提示し、その具体的な術式についても詳述する。
歯を守る歯科医療の立場から云えば、破折歯を保存することで抜歯による両隣在歯を削るBridgeやインプラントを避けることが出来る。
何にも増して、元々あったご自身の歯で再び咀嚼出来るならば、患者さんにとってこれに勝る喜びはない。
私達は歯科医師として『歯を守ることが使命である』という事を常に忘れずに臨床に取り組みたいものだ。
患者さんは、抜く・削る・神経を取る歯科医療よりも、歯を守る歯科医療を選択して来院される。歯科医多難な時代を尊厳と誇りを持って生き残るために、私達は如何に歯科臨床に取り組むべきであろうか。
今回は、歯髄の保存法や矯正的歯根挺出法、40年以上のEndoの長期経過症例についても出来るだけ多くの臨床例を提示し、ご指導とご批判を仰ぎたいと思います。

講演内容

  1. 抜かず
    (1)破折歯への対応 ―破折歯を抜かずに保存するために―
    ・破折歯根の接着・再植保存法
    ・非抜歯による破折歯 歯冠内接着保存法
    (2)歯根挺出法 ―矯正的・外科的・自然挺出法―
    (3)重症ペリオ症例への対応 ―重症ペリオを抜かずに保存する―
  2. 削らず
    (1)天然歯pontic応用で両隣在歯の削去を避ける
    (2)Partial venier Bridgeで天然歯質の削去を避ける
    (3)深いカリエスも最大限 健全歯質を保存する
  3. 歯の神経を守る
    (1)抜髄治療は過去のものだ
    (2)深いカリエスから歯髄を守る
    (3)外傷破折露髄歯の歯髄の保存
    (4)患者さんは神経を抜く歯科医師よりも神経を守る歯科医師を選ぶ
  4. Endodonticの長期症例から
    (1)根尖病巣を有する感染根管治療とその限界
    (2)いわゆるEndo・perio合併症への対応
    (3)根尖病巣は外科(抜歯)かEndo(保存)か外科的Endoか
    (4)これはEndoで治りますか
  5. 医療倫理を問う

略歴

1972年
愛知学院大学歯学部歯学科 卒業
愛知学院大学歯学部 第一口腔外科 入局 助手
1975年
名古屋市千種区にて開業
1984年
名古屋市千種区歯科医師会 理事 副会長
1990年
歯学博士取得
1991年
愛知学院大学歯学部同窓会 常務理事 副会長
1993年
愛知学院大学歯学部同窓会
ポストグラデュエートコース実行委員長
1994年
愛知県歯科医師会 学術部 次長
調査室 次長
選挙管理委員会 委員長
2003年
日本歯科医師会 学術・生涯研修委員会 委員
2005年
愛知県国保連合会 審査委員
愛知県歯科医師国保組合 副理事長
愛知県歯科医師会 会務運営委員会 委員長
2008年
愛知県歯科医師会 会館建設検討委員会 副委員長
2009年
愛知県歯科医師国保組合 理事長Ⅰ期
2010年
全国歯科医師国民健康保険組合連合会(全歯連)
特定歯科検診 検討委員会 委員
2011年
愛知県歯科医師国保組合 理事長Ⅱ期
全国国民健康保険組合協会(全協)常務理事
全国国民健康保険組合協会(全協)中部支部 支部長
2013年
愛知県歯科医師国保組合 理事長Ⅲ期
愛知県国保連合会 専任審査委員
愛知学院大学歯学部同窓会 相談役

最近の文献

  1. 斉藤佳雄:若き歯科医へ 21 世紀の歯学 〈その 14〉歯科人生をどう切り開くか。日本歯科評論 No605;P101-116、 1994
  2. 斉藤佳雄;破折歯根への対応skill up of D e n t a l P r a c t i c e 1 . 歯を守る、P178-183、P192-197 医歯薬出版、東京、2002.
  3. 斉藤佳雄;深いカリエス-歯髄を守る-; 臨床歯科医のステップアップ研修(1) リスクを持つ歯へのアプローチ 宮地建夫編、P1 ~P18 ヒョーロン・パブリッシャーズ、東京、 2005.

講演後記

令和4年2月6日(日)PGC講習会が行われました。 今回は講師として、DENTAL OFFICE斉藤歯科室 斎藤佳雄先生をお招きし、
「歯を守る歯科医療」 -抜かず・削らず・歯の神経を守る歯科医療-
演題にてご講演いただきました。

2月になって雪が降る寒さの日曜日、実出席、オンライン出席のハイブリッド開催で56名の受講生にて開催されました。

ご講演は、破折歯根の接着・再植保存法を応用することで、抜歯適応と思われる天然歯の咀嚼機能を再び回復させることができる事をご教授頂きました。歯の破折には様々な形態があり、症例に応じて、歯髄の保存法や接着・再着・固定に至るまで求められる知識と技術の範囲は広く、天然歯を活かすための歯根破折の接着・再植保存法についてご講演頂きました。

天然歯を生かすための矯正的歯根挺出法や天然歯ポンティックの臨床応用、重度歯周炎への対応等についても、臨床経過とともにご教授頂きました。縁下に及ぶう蝕歯根に対し、矯正的歯根挺出法を用い、最終補綴物のマージンをコア上ではなく、健全歯質上に設定できるようにする事で、天然歯保存を可能にし、抜歯やインプラントを避けることが可能となる事を示されました。

天然歯の歯根を切除し、両隣在歯と接着する天然歯ポンティックとすることや、ラミネートボンディングブリッジを活用することで不要な切削を行わず、3mixを応用することで抜髄を避ける症例を多数ご紹介頂きました。
また非抜歯による破折歯根の歯冠内接着保存法について臨床例と共に臨床術式についてもご教授頂きました。この術式は、従来の接着・再植保存法と比較して歯根膜の損傷を避けることができ、術後の患歯安定の為の固定期間が不要などの大きなメリットがある事を示して頂きました。

講習後の質問にもご丁寧にお答えいただき、大変有意義な1日講演でした。