多くの歯科医師は「できれば歯髄を保存したい」という思いで日常臨床を行っているのではないでしょうか。若い歯科医師であれば直感的なものかもしれないし、経験を積んだ歯科医師であれば、日々の臨床を通じ、有髄歯の予後の良さ、無髄歯のトラブルの多さを経験しているかもしれません。私の臨床では、多くの方が長期にわたりメインテナンスに通われており、メインテナンス中にう蝕と歯周病で歯を失うことはほとんどありませんが、失活歯の歯根破折には日々苦慮しています。歯髄保存の大切さを痛感しています。
その一方、「MTAで直接覆髄を行ってみたが上手くいかなかった」、「良かれと思って歯髄を保存したけれども強い痛みが生じて抜髄になり、その過程で患者との信頼関係を失ってしまった」、「不確実な治療をしたくない」などの経験から、歯髄保存にあまり積極的になれないこともあるようです。このような迷いがある理由は、経験的に成功率が低いことや失敗の原因がはっきりしていないことが考えられます。
歯髄保存に失敗する理由には、①治療前の診断が間違っていた(治らない歯髄を残そうとした)、②治療技術の問題で失敗した(治るはずの歯髄が死んでしまった)があります。今回は「治る歯髄、治らない歯髄」の生物学的原則を解説したうえで、臨床的にこれらをどう見分けるか、歯髄の診断と治療方針について話をさせていただきます。皆様の臨床のお役に立てることを願っています。
・日本自家歯牙移植・外傷歯学研究会
・国際外傷歯学会(International Association of Dental Traumatology)
・米国歯内療法学会(American Association of Endodontists)
・日本歯内療法学会