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第2回実習

必修!診療室からオーラルフレイル、口腔機能低下症を考える
- その概念と実践 -その1

●日時:2019年6月23日(日)9:30~17:00
●講師:菊谷 武

講師からのメッセージ

ある調査によると、約7割の高齢者が75歳を境に徐々に自立度を低下させ、10年ほどかけてほぼ全ての介助が必要となることが示されている。まさにフレイルという状態から要介護状態に至る課程を示していると言える。ここでみられる自立度の低下の原因となる身体機能の低下や認知機能の低下は、口腔機能の低下の原因にも結果にもなりうる。この課程の中でも特に比較的早期にみられる口腔機能の低下は、より重症な摂食機能障害に対して回復可能な余地を大いに残す領域と考えられ、地域歯科診療所に通院期間中に起こる変化であるとも言える。よって、歯科診療所において早期からのそして合理的な介入が求められる。

一方で、オーラルフレイル、口腔機能低下とは、要介護へ一歩踏み出した時期ともいえる。人口構成が大きく変わり、歯科疾患の病態も急激に変化していくなか、歯科は外来診療を中心とした、ある意味限られた人へサービス提供を行っているにすぎません。

日本人は女性で12年、男性で8年もの長い間、『不健康な期間』を過ごさなければなりません。この通院不可能となるのに備えて準備する契機となると考えます。

本講演では、オーラルフレイル、口腔機能低下症の概念から実践まで実習を交えながら共に学びたいと思います。

講演内容

  1. オーラルフレイルの概念
  2. 口腔機能低下症に気づく
  3. 口腔機能低下症を診断する
  4. 診断法の実習

略歴

1988年
日本歯科大学歯学部卒業
2001年10月
附属病院 口腔介護・リハビリテーションセンター センター長
2005年4月
日本歯科大学助教授
2010年4月
日本歯科大学教授
2010年6月
大学院生命歯学研究科臨床口腔機能学教授
2012年1月
東京医科大学兼任教授
2012年12月
口腔リハビリテーション多摩クリニック 院長

最近の文献

  1. Survey of suspected dysphagia prevalence in homedwelling older people using the 10-Item Eating Assessment Tool (EAT-10).Igarashi K, Kikutani T, Tamura F. PLoS One. 2019 Jan 23;14(1):e0211040. doi: 10.1371/journal.pone.0211040. eCollection 2019.
  2. Tongue function is important for masticatory performance in the healthy elderly: a cross-sectional survey of community-dwelling elderly.
    Sagawa K, Furuya H, Ohara Y, Yoshida M, Hirano H,Iijima K, Kikutani T.
    J Prosthodont Res. 2019 Jan;63(1):31-34. doi:10.1016/j.jpor.2018.03.006. Epub 2018 Sep 7.
  3. Oral hypofunction in the older population: Position paper of the Japanese Society of Gerodontology in 2016.
    Minakuchi S, Tsuga K, Ikebe K, Ueda T, Tamura F, Nagao K, Furuya J, Matsuo K, Yamamoto K, Kanazawa M,Watanabe Y, Hirano H, Kikutani T, Sakurai K.
    Gerodontology. 2018 Dec;35(4):317-324. doi: 10.1111/ger.12347. Epub 2018 Jun 8.
  4. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly.
    Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, Kikutani T, Watanabe Y, Ohara Y, Furuya H, Tetsuo T, Akishita M, Iijima K.
    J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018 Nov 10;73(12):1661-1667. doi: 10.1093/gerona/glx225.

著書

  1. 『あなたの老いは舌から始まる』NHK出版
  2. 『チェサイドオーラルフレイルの診かた』医歯薬出版
  3. 『お口,弱っていませんか?噛みにくい・食べにくいは歯科医院で相談できます。
    患者さんのためのオーラルフレイルと口腔機能低下症の本』

講演後記

令和元年6月23日と7月7日(日)愛知学院大学ポストグラデュエートコースが開催されました。講師には、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックの菊谷武先生をお迎えして「口はどう老いていくのか?」要介護高齢者の現状と問題点と題してご講演を賜りました。

午前の講義では、診療室に通院できる患者様の約7割が75歳以上の現状を考えると通院できる最後の外来診療と考え、フレイルのチェックは必要不可欠であり通院可能なうちにできる限りの処置は先送りしないで行うことが大切であること。フレイルのチェック項目①体重減少②疲れやすくなった③筋力の低下④歩くのが遅くなった⑤活動性の低下5項目の内3項目以上あればフレイルの疑いと診断され、該当する者は、5年後には通院不可能になり要介護に向かっていき、いずれ訪問診療が必要になること。65歳以上の11%がフレイルであること。オーラルフレイルは、身体的フレイルや死亡リスクと密接に関わっていること。舌圧の低位を示すものは、生命予後が悪いため外来診療で口腔機能低下の評価を行い、スクリーニングしていくことが大切であること。などお話しされました。

午後は実際に口腔機能低下症の評価の実習を各自行いました。舌圧計で舌圧を測定・口腔水分計で口腔粘膜湿潤度を測定・咬頭嵌合位における咬合圧測定・咀嚼力検査などの実習を和気藹々とした雰囲気の中で行いました。
2日目の講演では、午前の前回の講義の振り返りと、午後は、ワークショップ形式で、咀嚼障害の症例について、各グループで意見を述べ検討を行いました。器質性の咀嚼障害と運動性の咀嚼障害でのアプローチの方法や、各種訓練の内容などすぐに明日からの臨床に役立つ内容が盛沢山で有意義な1日となりました。