1.欠損歯列と欠損補綴
『義歯つまり治療手段が思考と行為の中心をなすことは避けるべきで、咀嚼器官の失われた機能を回復する目的のためには欠損歯列の病態学からとりかかるべきで・・・』これは藍稔訳「欠損歯列の補綴」1980年の"はじめに"の部分だった。このはじめの部分を読んでそれまで混在していた「欠損歯列」と「欠損補綴」をしっかり分けて考えるべきだと思うようになった。
2.欠損歯列という病態の連続性
欠損歯列の主病態を咬合支持の損傷状態あるいは咬合支持の不全とみなし、しかもその欠損歯列は"一つの継続した病態"と捉えるべきではないかと思うようになった。欠損歯列の診断ポイントは一人一人に特有な連続したコースの把握であり、長い経過を把握するためには流れの軌跡を理解しやすい時間軸に沿った指標が必要になる。その病態のコースをレベル・パターン・スピードという視点から理解すると分かりやすい。忘れてならないのは連続した病態が長期になると常に増齢リスクの影響を抱え込むことを覚悟しなければならなくなる。
3.欠損補綴の目標と終末像
義歯装着の目的は機能回復のような(1)患者の現在の問題解決と患者が気づかない(2)将来リスクへの対応という2面がある、このうち将来リスクに対しては歯の喪失拡大・咬合崩壊の抑制を目指すことはもちろんだが、長期経過の多くは欠損拡大の流れを止められない経験をする。そうした患者に対しては欠損歯列の行く着く先の将来像や終末像をイメージすることも大切な診断ポイントになってくる。