●日時:2021年12月19日(日)9:30~17:00
●講師:菊谷 武 氏
人口の高齢化が叫ばれ、医療費、介護費の高騰が叫ばれる中、歯科は60歳代をピークに受診患者を大きく減少させています。人口構成が大きく変わり、歯科疾患の病態も急激に変化していくなか、歯科は外来診療を中心とした、ある意味限られた人へサービス提供を行っているにすぎません。足腰の衰えがみられるように、すべての人に口腔機能の低下がみられます。「噛みにくい」を訴えてきた患者の原因をすべて歯の欠損や義歯の不適合、咬合の問題と考え対応してきた歯科には、大きな転換が必要となってきています。噛めない理由は「年のせい」であり、残念ながら、回復する余地は乏しいと患者に伝える必要があります。8020を達成しても咀嚼障害患者が減らないことがこの事実を示しています。その根拠を示すのが、舌圧測定であり、口腔運動機能検査となります。外来診療室に訪れている患者のほぼすべては早晩に通院不可能になります。日本人は女性で12年、男性で8年もの長い間、不健康な期間と呼ばざるを得ない時期を過ごさなければなりません。この期間こそが、私たちが訪問診療で対応しなければならない時期です。この通院不可能な時には、さらに、口腔機能は低下しており、どう支えていくのか?歯科にとって喫緊の課題だと思っています。
本講演では、口腔機能の低下を外来診療室から客観的にとらえ、的確に対応することによって、通院が困難になるときに備える必要性を解説します。
令和3年12月19日(日)第3回PGC講演会が、ハイブリット形式にて行われました。講師に菊谷 武先生をお招きし、「口はどう老いていくのか?」―フレイル、口腔機能低下症をどう捉えるのか?―をテーマにご講演頂きました。 先生が摂食嚥下リハビリテーションの世界に入ったのは、学生時代に御祖母様が認知症になったのがきっかけ。卒後在宅高齢者に義歯を入れ続けるものの、喜んでもらえない。悩んだ末に辿りついた言語聴覚士の教科書で、「歯があること自体のリスク」を知り、様々なエビデンスを積み上げながら「食べる」を支え、「食べられない」を支える、物語(ナラティブ)としての食を通してパイオニアとしての確固たる地位を築いていかれました。 講演は、基礎知識から、勤務先である日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックでの取り組み、実際の症例を交えながら、先生の愛と思いやり溢れる語り口に、感動と興奮の涙を禁じ得ない素晴らしい内容でした。 日本人はどう老いていくのか。口腔機能低下症の診断基準やその評価法だけでなく、口の終(しまい)も考えながら、その人のいのちや楽しみだけでなく、支える人も支えられる歯科の奥行を実感できただけでなく、本講演を通して特に「視点を変えて、患者さんのライフステージや年齢によって外来での治療方針、口腔衛生指導を変えていく必要があること」が理解できました。 日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックHPより『生きるためのそしてしあわせのための器官である「くち」を守るために』というこの理念、私も心にとどめます。ありがとうございました。