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第4回講演

専門的口腔ケアと摂食嚥下の本質を学ぶ

●日時:平成28年9月11日(日)9:30~17:00
●講師:角  保徳 氏、植田  耕一郎

講師からのメッセージ

角 保徳
我が国では、2015 年には4 人に1 人が65 歳以上の高齢者になり、世界に類を見ない超高齢社会を迎え、要介護高齢者数は急増している。要介護高齢者への口腔ケアは、口腔疾患や誤嚥性肺炎の予防だけでなく、栄養維持に有用であることが報告され、歯科医師・歯科衛生士によって多くの病院や施設などで口腔ケアの普及への取り組みがなされている。本講演では、歯科医師・歯科衛生士が行う専門的口腔ケアの考え方をベースに、標準化した口腔ケア、専門的口腔ケア、専門的口腔ケアの手技としての『水を使わない口腔ケア』、口腔ケアと併用して要介護高齢者のQOL を高める化粧(整容)療法、周術期の口腔管理等について臨床スライドを中心に解説したい。

植田 耕一郎
1994 年に医療保険導入された摂食機能療法は、20 年以上が経過した今、その需要に応え切れているとは言いがたい状況です。歯科の場合は、摂食機能障害の抽出法、評価法、技術、そして人材と理念の確立が急務といえます。しかし、それらは決して今日まで体系化された歯科医学から逸脱するものでも新規性のあるものでもありません。どのような状況であっても、基礎に忠実な歯科医療を展開していくこと、ただし対象は、脳卒中、認知症、パーキンソン病、神経難病等であるということです。診療所歯科医師としての摂食嚥下リハビリテーションの本質を、さらに超高齢社会の日本の健康について検討します。

講演内容

角 保徳
  1. 超高齢社会の到来と口腔ケアの必要性
  2. 標準化した口腔ケアの手技
  3. 専門的口腔ケアの考え方
  4. 専門的口腔ケアの手技としての『水を使わない口腔ケア』
  5. 口腔ケアと併用して要介護高齢者のQOLを高める化粧(整容)療法
  6. 周術期の口腔管理
植田 耕一郎
  1. 摂食機能障害の歯科的特徴
  2. リハビリテーションの理念
  3. 摂食嚥下リハビリテーションの手法
  4. かかりつけ歯科医が実施する在宅支援
  5. 21 世紀超高齢社会の健康感

略歴

角 保徳
1981年
東京医科歯科大学歯学部卒業
1985年
名古屋大学大学院医学研究科修了(医学博士)
1986年
名古屋大学医学部助手
1990年
名古屋大学医学部講師
小牧市民病院歯科口腔外科部長
2004年
国立長寿医療センター 先端医療部口腔機能再建科医長
2011年
国立長寿医療研究センター 歯科口腔先進医療開発センター 歯科口腔先端診療開発部部長
2014年
国立長寿医療研究センター 歯科口腔先進医療センター センター長 現在に至る

日本老年歯科医学会理事、専門医・指導医
日本口腔外科学会 専門医・指導医
Geriatrics and Gerontology International Associated Editor
Geriatric Medicine 編集アドバイザー
植田 耕一郎
1983年3月
日本大学歯学部卒業
1987年3月
日本大学大学院歯学研究科修了(歯学博士取得)
1987年4月
日本大学歯学部助手
1990年6月
東京都リハビリテーション病院 医員
1999年4月
新潟大学歯学部加齢歯科学講座 助教授
2004年4月
日本大学歯学部摂食機能療法学講座 教授
2014年9月
日本大学歯学部付属病院 副病院長
平成17年度
厚生労働省介護予防検討委員会 口腔機能の向上支援マニュアル研究班 主任研究者
平成18、19、20年度
厚生労働省「介護予防継続的評価分析等検討委員会」委員
平成19年度
「 介護予防給付の栄養改善、口腔機能の向上支援の実施に関する研究」主任研究者
平成20年、21年度、22年度
「 摂食・嚥下機能改善のための補助具に関する研究」主任
平成18年度、21年度、24年度
「 口腔機能向上支援マニュアル(改訂版)」研究班長  現在に至る

日本摂食嚥下リハビリテーション学会 理事長
老年歯科医学会 認定医、指導医、常任理事

所属

角 保徳
客員教授
岡山大学、徳島大学、松本歯科大学、岩手医科大学、東京歯科大学
非常勤講師
東京医科歯科大学、九州大学、鹿児島大学、鶴見大学、松本歯科大学、朝日大学、昭和大学
植田 耕一郎
愛知学院大学歯学部非常勤講師
神奈川歯科大学非常勤講師
奥羽大学客員教授

最近の文献

角 保徳
  1. 角 保徳 『プロフェショナルシリーズ お年寄りに優しい治療・看護・介護8 口腔ケアのプロになる』 医学と看護社 2013
  2. 角 保徳 『歯科医師・歯科衛生士のための専門的な口腔ケア~超高齢社会で求められる全身と口腔への視点・知識~』医歯薬出版 2012 年
  3. 角 保徳 『新編 5 分でできる口腔ケア―介護のための普及型口腔ケアシステム』 医歯薬出版 2012 年
  4. 角 保徳 “一からわかる抜歯の臨床テクニック”医歯薬出版 2008 年
  5. 角 保徳、樋口勝規、梅村長生“一からわかる口腔外科疾患の診断と治療” 医歯薬出版 2006 年
植田 耕一郎
  1. 長生きは唾液で決まる(講談社+@ 新書)2014,植田耕一郎
  2. 脳卒中患者の口腔ケア 第2 版(医歯薬出版)2015,植田耕一郎

講演後記

平成28年9月11日(日)愛知学院大学歯学部楠本学舎にて、第4回ポストグラデュエートコースが開催されました。講師に国立長寿医療研究センター 歯科口腔先進医療開発センター センター長でいらっしゃる角保徳先生と、日本大学歯学部 摂食機能療法学講座 教授でいらっしゃる植田耕一郎先生をお招きし「専門的口腔ケアと摂食嚥下の本質を学ぶ」と題してご講演を賜りました。

午前中は、まず角先生に「専門的口腔ケアと摂食嚥下の本質を学ぶ」をテーマに超高齢化社会の到来における歯科界のパラダイムシフトと専門的口腔ケアの実際についてお話し頂きました。今後の日本は超高齢化社会が継続する事は確実であり、歯科医療はこれまでの健常者型から、口腔機能向上を目指す高齢者型の歯科医療へと転換していく。要介護高齢者の口腔内は多種多様な疾患があり、他職種と連携しつつ口腔ケアを普及させていくことが私たちには求められている。今回の講演ではこれに必要な、1日1回5分で行える標準化した口腔ケアシステムや、専用ジェルを用いた「水を使わない口腔ケア」の手技についてもご紹介頂きました。

午後は植田先生に「歯科が実践する摂食嚥下リハビリテーション ーかかりつけ歯科医が実践する診療所を核にした摂食嚥下リハビリテーションー」と題して歯科における摂食嚥下リハビリテーションの事始めから現在に至るまでをお話頂きました。私たちの診療室にも摂食嚥下リハビリテーションを必要とする方が大勢いる。摂食嚥下リハビリテーションには完全治癒はない。だからこそ、かかりつけ歯科医の存在は重要なものである。私たちにはあまにりも当たり前となっている、口腔相を直視し、触れることができるということがいかに大切で尊いことかを忘れてはならず、相手の小さな変化を見逃さない事、診療室から出来る事を日々続けていく事が大切であると感じました。

今回の講演を通して、これからの超高齢化社会の歯科医療を担う私たちに課せられた使命、他職種連携の中での私たちの役割について理解する事ができました。貴重なご講演を頂いた二人の偉大な先生方に、深く御礼申し上げます。