日時:平成27年10月25日(日)9:30〜17:00
講師:中田 和彦 氏・興地 隆史 氏

> 講演後記

【中田 和彦 氏】
「一般歯科医に求められる歯内治療の現在の医療水準とは?」という問いに答えることは、必ずしも容易ではありません。歯内治療領域における近年のトピックスを振り返ってみると、1990 年代の@新世代の電気的根管長測定器、A各種レーザー、Bニッケルチタン(Ni-Ti)製ロータリーファイル、C多目的超音波治療器、DデジタルX線システム、Eマイクロスコープ、F MTA セメント、2000 年代のG歯科用コーンビームCT が挙げられます。ここからわかることは、Ni-Ti ファイルの新製品が毎年のように上市され、根管処置の効率化に大きく貢献しているのに対して、歯内治療用材料については、本邦の認可制度の“壁”などから、MTA セメント以外には何も“発明品”がないことです。しかし、歯内治療に求められる専門知識や技術の本質は、決して変わることはありません。私たち臨床歯科医に今できることは、歯内治療の原理原則に従った診療の実践について再考してみることではないでしょうか? そこで、愛知学院大学歯学部歯内治療学講座と同附属病院歯内治療科診療部での取り組みを紹介し、学術論文によるエビデンス(科学的根拠)に基づく知見なども提示しながら、「研究に立脚した歯内療法」について解説したいと思います。
また、5年前から始まった「自己歯髄幹細胞を用いた歯髄再生治療法」の臨床研究は、本年3月をもって“第一段階”が終了しましたので、その概要についても時間の許す限りご紹介するつもりです。
本講演の内容をみなさまの日常診療に少しでも役立てていただければ幸いです。
【興地 隆史 氏】
NiTi ロータリーファイルの開発、手術用実体顕微鏡や歯科用CT の導入など、歯内療法の器材・術式は著しい進歩を遂げていますが、その中でなお歯内療法の確実な成功を阻む要因として、ケースアセスメント(診断、難易度・リスク評価、および意思決定)の不確実性を挙げることができます。治療の成功を阻む因子の見きわめ、着手の是非やタイミングの検討、適切なストラテジーの選択といった「見立て」の不確実性が、歯内療法の不確実性に大きく関連すると言い換えることができます。
そこで本講演では、ケースアセスメントを縦軸、トラディショナルから最先端までの器材術式を横軸として、歯内療法を成功に導くための要点を整理してお話したいと思います。

【中田 和彦 氏】

  1. 根管処置の成功率
  2. 日本のエンドの現状
  3. エンドで必要な歯の解剖学
  4. 歯髄保存と抜髄の分岐点
  5. 歯髄保存の重要性と実例
  6. 抜髄時のポイント
  7. 根尖病変の成立機序
  8. 隔壁とラバーダム防湿の重要性
  9. 歯髄再生治療法の現状と展望

【興地 隆史 氏】

  1. ケースアセスメントの考え方
  2. 歯内療法領域における症例に応じたケースアセスメント
    *歯内-歯周疾患
    *垂直歯根破折
    *穿孔
    *再根管治療
    *外傷歯
    *ライフステージに応じた歯内療法
    *非定型歯痛
  3. 根管形成法のポイント(手用、Ni-Ti)
  4. 各種根管充填法の選択
  5. 特殊症例への対応(レッジ、狭窄根管、破折器具など)

【中田 和彦 氏】
1988年 愛知学院大学歯学部歯学科 卒業
  1992年 愛知学院大学大学院 歯学研究科博士課程修了(博士(歯学))
愛知学院大学歯学部口腔治療学(現歯内治療学)講座 助手
  1997年 オーストラリア・クイーンズランド大学 歯学部 客員研究員(1998年8月まで)
  1998年 愛知学院大学歯学部歯内治療学講座 講師
  2013年 同上 准教授
  2014年 同上 教授(現在に至る)
 
【興地 隆史 氏】
1984年 東京医科歯科大学歯学部卒業
  1988年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了
  1994-1995年 イエテボリ大学客員研究員
  2001年 新潟大学歯学部附属病院 総合診療部 教授
  2003年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 口腔健康科学講座 う蝕学分野 教授
  2015年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 口腔機能再構築学講座 歯髄生物学分野 教授
   

【中田 和彦 氏】

  1. Aetiology, incidence and morphology of the C-shaped root canal system and its impact on clinical endodontices. International Endodontic Journal 42(11): 1012-1033 2014 年(共著)
  2. ライフステージと歯内療法 −歯の長期保存のために− CBCT が歯内療法のもたらしたもの.月刊デンタルダイヤモンド 夏季増刊号: 100-107 2013 年(共著)
  3. 歯内療法領域における歯科用CTを用いた画像診断に関するクリニカルパスの構築.日本歯科医学会誌 31: 69-73 2012 年(共著)
  4. 穿孔部封鎖処置における歯科用コーンビームCTとマイクロスコープの応用.日本歯内療法学会雑誌 32(3): 154-161 2011 年(共著)
  5. コームビームCTとマイクロスコープを使用した歯内療法. 日本歯内療法学会雑誌 31(3):220-228 2010 年(共著)

【興地 隆史 氏】

  1. 興地隆史.新時代の歯内療法の動向.歯科医療28(3): 4-11, 2014.
  2. 興地隆史.Ni-Ti ファイルの潮流と展望.須田英明監修,新しいsingle patient use のNi-Tiファイル.クインテッセンス出版,東京,152-155, 2014.
  3. 興地隆史.高齢者の歯内療法の考え方と実際.日本歯科医師会雑誌 67(1), 6-15, 2014
  4. 興地隆史.歯内療法のケースアセスメントと臨床.医歯薬出版,東京,2013.
  5. 興地隆史,ライフステージと歯内療法.興地隆史他編,ライフステージと歯内療法.デンタルダイヤモンド社,東京,10-5, 2013.

平成27年10月25日(日)愛知学院大学楠元学舎にて、第5回ポストグラデュエートコースが開催されました。 講師に、平成26年に愛知学院大学歯学部歯内治療学講座 教授に就任された中田和彦先生、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔機能再構築学講座歯髄生物学分野 教授 興地隆史先生をお招きして、「研究に立脚した歯内療法」―自信を持ってエンドを行うために―と題してご講演を賜りました。
午前は、中田先生に「一般歯科医に求められる歯内療法の現在の医療水準とは?」をテーマに、根管処置の成功率と歯髄保存の重要性について、エビデンスとなる学術論文に基づき、分かりやすくお話頂きました。歯科用コーンビームCTやマイクロスコープの使用が必須となりつつある歯内療法において、本当に重要であるのは、的確な診査・診断に基づき、日常の臨床では煩雑になりやすい、隔壁、ラバーダム防湿および仮封による無菌的処置を徹底することであり、歯内療法の基本的原則に従った診療の重要性を、先生のお話により再認識することができました。また、少しでも残せる可能性があれば全力で歯髄を残す努力をすることの大切さ、歯髄保存のための診査・診断、術式のポイントを、実例をもとに、解説して頂きました。そして最後に、「自己歯髄幹細胞を用いた歯髄再生治療法」の臨床研究の経過と成果について報告して頂き、歯内療法の新しい可能性に大変興味深く思いました。
午後は、興地先生に「ピットフォールに陥らないためのヒント」をテーマに、実際の症例の治療結果に基づいて、歯内療法を成功に導く要点をお話頂きました。講演では、最新の歯内療法の概要をお示し頂き、根管充填状態が良好であるにもかかわらず残ってしまう難症例および経過不良歯の原因や診査・診断のポイント、また無症状の歯に対する再根管治療の着手の基準など、ケースアセスメントの要点を分かりやすくお話頂きました。また、難症例化の主因となりうる根管の解剖学的形態の複雑性についてご教示頂き、根管洗浄および根管充填が可能な形態を付与するための根管形成の要件および術式については、若い先生のみならず、ベテランの先生方にとっても、大変勉強になるお話でした。  今回の講演では、歯内療法領域における近年のトピックスから歯内療法の原理原則に従ったトラディショナルな診療の重要性を再確認でき、受講生の日常臨床において、歯内療法を成功に導くための有意義な講演会となりました。二人の偉大な先生方に、深く感謝申し上げたいと思います。