日時:平成27年9月27日(日)9:30〜17:00
講師:白石 和仁 氏

> 講演後記

Evidence という言葉が持て囃されだして久しいが、その中で議論される代表的なものが「抜歯か?保存か?の判断基準」である。演者の臨床には「抜歯か?保存か?の判断基準」など無いに等しい。われわれ歯科医師の仕事とは、たとえ残せる可能性が数%であったとしても、その歯の保存に一度は全精力を注ぎ込まなくてはならないからである。
はたして科学的根拠の裏付けがあれば本当に誰がやっても同じ結果が得られるのだろうか? だとすればEvidence とは不器用な人、もしくは努力を放棄した人のために作られたルールといえる。
狭い日本の中であっても地域性によって異なる医療をWorld Wide なる名の元に地域性・人種・民族性・医療制度・手先の器用さも違う欧米の考えをそのまま日本に持ち込んでも無理はないだろうか?
そんなことに縛られていては保存可能な歯も抜歯になってしまう。臨床には「Evidence に縛られないChallenge」も必要である。それ無くして術者側の技術の進歩と向上は成しえないからだ。今回はそのChallengingCase を長期経過症例を交えながら提示することにした。批判の嵐を期待する。

  1. 保存か抜歯か その判断基準とは?
  2. みんなが知らないアメリカ歯科医療の現状
  3. 最先端医療と最前線医療の違い
  4. 骨膜グラフト
  5. エムドゲインの臨床
  6. 長期経過症例から何を学ぶか?

1987年 福岡歯科大学卒
同第二補綴学講座入局
  1989年 熊本市鳥取歯科医院勤務
  1992年 北九州市にて開業
  2012年 福岡歯科大学歯周病学分野臨床准教授
 


【所属】
日本歯周病学会認定歯周病専門医、 日本臨床歯周病学会認定医・理事、日本顎咬合学会指導医、日本審美歯科協会会員、日本口腔インプラント学会会員、日本包括歯科臨床学会会員、北九州歯学研究会会員


著書

  1. イラストレイテッド歯周外科アドバンステク ニック―再生療法とインプラントに挑む―.東 京:クインテッセンス出版,2009.

共著

  1. 補綴臨床別冊 歯科臨床における再生療法 医歯薬出版
  2. 歯列をまもる「クラウン・ブリッジの技術 −臼歯部ー」東京: 医歯薬出版,2003
  3. 河津寛,普光江洋(監著).新装版 補綴に強くなる本(上・下).東京:クインテッセンス出版,2009.
  4. 歯周病患者におけるインプラント治療の実践 日本臨床歯周病学会編集 東京:医学情報社,2011
  5. 歯周外科をともなった審美修復治療 日本審美歯科協会30 年の歩み −あくなき挑戦― 日本審美歯科協会編 東京:クインテッセンス出版,2014.

その他論文多数


平成27年9月27日(日)、愛知学院大学歯学部楠元学舎にて、講師に北九州市で開業されている白石和仁先生をお招きして「歯を保存するための意識改革−Evidenceに縛られないchallenge−」という演題で講演がおこなわれました。
初めに「歯科医師の使命」とは何だろうと問題提起され、それは「病気に罹患しダメージを受けた歯の保存に努めそれを機能させるレベルまで回復させることだ」と話されました。
昨今のアメリカでの歯科医療界での現状について話をされ、アメリカが一番先進的な治療をしていると考えている日本の歯科医師が多いが65歳以上のアメリカ国民の25%が無歯顎であることを指摘されました。そのアメリカでは医療格差が広がり、訴訟社会であるために、医療過誤と防衛医療が行われていることを説明され、残すことができる歯を安易に抜歯してしまうことは危険ではないかと話をされました。インプラント治療が一般化してきて20〜30年ほどになるが日本でも本来なら保存できる歯を抜歯してインプラントをすすめてしまう歯科医師になっていないかと問いかけられました。そういう治療が増えていくと歯科医師としての尊厳が減っていき、待っているのは訴訟社会ではないかと話されました。
初診時とレントゲン写真と10〜20年経過した歯周病患者の症例を交えながら、インプラントも必要最小限使用しながら、保存できる歯は保存していくという先生の考え方がよくわかる内容でした。 午後からは歯周外科の臨床症例を多く交えながら、骨膜グラフトとエムドゲインの有用性、テクニックなどを説明していただきました。初診時のレントゲン写真をみると抜歯と判断してしまう先生が多いと思われる症例でも、10〜20年後初診時よりもずっといい状態で保存されている事実をみると、歯を残すために努力をすることの重要さを改めて感じさせられました。
歯周外科は大学でも授業では習うが臨床でもほとんど見学することもなく歯科医師になってしまう。卒業後も歯周外科は患者さんが痛みを伴い、歯科医師も治せるという自信がなく手をだしづらい分野であると思う。しかし、歯科医師が努力をして勉強し、挑戦していかなければ、残せる歯も抜歯になってしまう。その残そうとする努力をし続けることが大切であると感じました。
「理論の伴わない行動は暴力であり、行動の伴わない理論は空虚である」と説明され、理論と行動の両方のレベルアップに日々励んでいくことが必要であると話されました。参加された先生は、歯を残すために常に努力していく先生の姿勢に共感されたのではないでしょうか。
このような貴重な講演をしていただいた白石先生に感謝したいと思います。