> 講演後記
咬合は臨床で難しいと思われているものの代表である。しかし,それは臨床における観察に基づいた現象の整理が十分にされていないからである。生理的顎機能の個人差とは顎位であり顎運動の違いである。同じ食物を入れた時に,どのように咀嚼するかの個人差である。しかし臨床では,患者はフランスパンが大好きであるとか,俯せで寝るとか,生活習慣の影響が大きく,また患者のおかれた環境からのストレス等の影響も十分に考慮しなくてはならない。補綴物の破壊や,歯周組織の咬合性外傷はこの生活習慣やストレスに大きな影響を受けているといえる。この顎機能の個人差よりも生活習癖の個人差がもつ意味を考えたことがあるだろうか。 補綴物を守るとか,歯周組織を守るということのために咬合様式の目標設定を誤っていないだろうか。いかなるデザインでも個人の不良因子としての悪習慣やストレスを乗り越えることはできないので,全ての問題点が症例を失敗に至らせ,患者の信頼を失う。この咬合の悪因子は,習癖やストレスの様な変更出来るものと異なり,確実に歯や歯周組織・顎堤を蝕む。まして患者の咀嚼を阻害し,患者のQOLを低下させる。この最適なものから逃れた犬歯誘導がもたらす結果が自らの業種の失敗と症例全体の失敗になるとしたら,まさに今学ぶべきは最適な咬合とは何かであろう。歯科医にも,歯科技工士にも,歯科衛生士にも共通した問題点としてこれらについて提起したい。